2015年3月20日金曜日

民法に定める7種の遺言の方式のうち、4つのマイナーな遺言について

 昨日に続いて遺言のお話です。
 民法では遺言の方式として7種類のものが定められています。
 そのうち、「公正証書遺言」「秘密証書遺言」「自筆証書遺言」については、一般的なのでそこそこご存じの方も多いのではないでしょうか。
 それに比べて、残りの4つについてはなかなかマイナーな気がしています。その内容からして仕方がないとは思うのですが、海や船の手続を扱う海事代理士としては少し関係することもあり、ちょっと頭に入れておきたい内容です。
 民法では、上記3つの方式以外に、次の4つが定められています。
 1)一般危急時遺言(死亡危急者遺言)
 2)難船危急時遺言(船舶遭難者遺言、難船臨終遺言)
 3)一般隔絶地遺言(伝染病隔離者遺言)
 4)船舶隔絶地遺言(在船者遺言)
 簡単に解説したいと思います。

1.一般危急時遺言(死亡危急者遺言)について

 これは、生命の危険が急迫している場合に、通常の遺言の厳格な要件を満たすことが難しいことからこれを緩和するために定められているものです(民法976条)。
 例えば、病気で入院している人が今際の際に最期の言葉を遺す場合などに、証人が3人以上立ち会い、そのうち1人が遺言者の遺言を筆記し、各証人がその筆記が正確なことを承認し署名・押印することによって遺言とすることが可能です。
 作成日付については、書かなくても遺言が無効となることはありません。
 ただし、この遺言の方式の場合は、遺言の日から20日以内に証人の1人または利害関係人から家庭裁判所に請求し確認を得ることが必要です。この確認によって効力が生じることになります。

2.難船危急時遺言(船舶遭難者遺言、難船臨終遺言)について

 これは、船舶が遭難した場合に、その船舶内で死亡が迫った者が証人2人以上の立ち会いで口頭により遺言をすることができるというものです(民法979条)。
 この遺言の方式の場合も、作成日付については書かなくても遺言が無効となることはありませんが、やはり証人が筆記をして署名・押印し、証人の1人または利害関係人から「遅滞なく」家庭裁判所に請求してその確認を得なければならないことになります。
 ただ、今にも沈む船の中で、お互いに遺言しあって生き延びた人が後日手続きを行う、ということを想定しているのでしょうか、なかなか実際にはイメージしにくい状況です。

3.一般隔絶地遺言(伝染病隔離者遺言)について

 これは、伝染病のための行政処分によって隔離された者が、警察官1人と証人1人以上の合計2名以上をもって作成することができるというものです(民法977条)。
 一応、条文上は「伝染病のため」となっていますが、刑務所内の者や洪水・地震等により事実上交通を断たれた場所にある者も含まれると解釈されているようです。

4.船舶隔絶地遺言(在船者遺言)について

 これは、船舶内にいる人が、船長又は事務員1人と証人2名以上の立ち会いをもって作成することができるというものです(民法978条)。
 船舶に関しては、航海に従事する船舶のみを指す、という説と、湖川航行の船舶を含む、とする説があるようです。
 また、条文上「在船中」という言葉は、船舶が航行している時だけではなく、停泊中でもよいと解釈されています。
 この方式の遺言をすることができる者は旅客と事務員(船長以外の船舶職員)とされています。船長は事前にしておきましょう、ということですね。
 ちなみに、飛行機の場合、短時間で隔絶状態が解消されるという理由からこの方式による遺言は認められていないようです(自筆証書遺言や一般危急時遺言などの方式は可能)。
 以上、ご参考になればと思います。